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『スカイ・クロラ』
『スカイ・クロラ』をあるれん氏と渋谷まで見に行ってきた。最後まで飽きなかった。あまり詳しくは書かないが延々と同じ時間が繰り返される円環の閉塞した物語で、死をもってしてもそこから解放されることのない世界が舞台。押井守については詳しく知らないが、『イノセンス』にも繰り返す場面があり、『ビューティフル・ドリーマー』に到っては繰り返し自体がテーマなのだから、彼がこのテーマにこだわっていることくらいは分かる。あとは犬。
問題は、草薙にいる娘である。というのも、彼女は将来大人になることで永遠に成長しない「キルドレ」である彼女をいずれは追い越すのだが、それは救いようのない繰り返し/無時間から、繰り返すことのない時間を持った存在が生まれたということじゃあないのかね? 円環にあけられた穴のようであるが。
(原作によれば「キルドレ」であることをやめたり戻ったりできるそうだ。あとは草薙の「ティーチャー」との因縁とかもあるそうだが、自分はとりあえず映画本編から読み取れる情報のみから解釈するつもり)
そうだ、最大の問題は字幕と英語の内容が時折ずれていること。互いに名を呼ぶときにどうしても函南だとか湯田川だとか聞こえない。あとは「ティーチャーを墜とす」という字幕に「I'll kill my father.」と明確に発音していることか。多くの日本人はポーランド語はともかく英語は曲がりなりにも出来るので、これは意図された演出に違いない。
で、映画を見ていかがわしい一帯にあるラーメン屋で昼を食べ、ガード下のコーヒーやで一息入れてブックオフとブックファーストに立ち寄って解散。二冊購入。
読み返している本は『金閣寺』。半分くらいまで。なんじゃなあ、昔読んだときは一パーセントも理解していなかったな。ただ挑戦したことは無意味ではないはず、良質なものを読み通す作業の繰り返しからしか名作を受け入れる準備はできないだろうから。
福田総理辞めるそうだな。
MESSIAH COMPLEX CHAPTER VII-11
機人シーシュポスとカッサンドラが色彩の暴発の跡を千葉市に残してからまったく消失したための本部の騒擾の収まるか収まらぬかといううちに、空電を通して聞こえたラテン語を浅田は誰に聞かせるともなく翻訳していた。
「……正義を愛せよ、地に住まうもの、か」
「『神曲』に出てくる木星天に集まる魂の集合体が発する言葉だね。確か正義を愛した人間の魂が集合して巨大な鷲の形を作り、一つの存在のように振舞うんじゃなかったっけ」
浅田がふと妙な表情をして彼のほうを振り向くと、桐仁は微苦笑する。
「聖蓮がね、ちゃんと修正の入っていない版に当たれっていってね。それまでろくに読んだことなかったんだけど、彼女に言われたら読まないわけにはいかないだろう?」
「ふん」
浅田は再び大写しになった怪鳥と空電とに集中する。それは自分自身を支えるような構造を殆ど変化させずに静止したまま全身を震わす。その表層に溜まった脂肪を抱え込んだ皮膚のように波打ちながら肉塊は遠雷のようにしかしはっきりと言語を作り出した。
「堕天者よ、堕天者よ、天と地の災いよ」
先程のラテン語の小文に比べてそれは遥かに遠くまでの空間を震動させた。込められた感情の激しさに比例するかのようであった。
「今こそ我ら汝らを裁かん。ラーフラ、アブー・バクル、そしてトマス。まずはその罪大なる三者より罪に定めん。汝らは既に計量され、不足の明らかなれば」
今まで心なしか俯き気味であった浅田は、その言葉で面を上げ、相手からは見ることの出来ないはずであるにもかかわらず激しく面を上げた。
「トマスは死んだぞ」
「ほう?」
「そうだ、トマスは死んだ。俺たちに後事を託して彼は去った。最後まで両種族の共存に望みを失うことなく」
「おろかなことを。可能性のないことに賭けるのは希望などではなくただの愚行に過ぎぬ、ラーフラよ」
「二度とその名で俺を呼ぶな、俺は堕天してとうの昔にそれを捨てた」
「たわけたことを。今のお前は類人猿の中で暮らす文明人の苦痛をどれほど味わっているか。神族と人族は身体能力も忍耐力も、そして知能もまるで異なっていること甚だしい。何気ない会話のときでさえ、お前が百考えるうちに人は一しか思わん」
「この期に及んで説得か? 笑わせるな」
「神には常にゆるす用意がある、それを受け入れないのがもはや堕ちて人となった者どものおろかさだな」
「もう結構じゃないかね、彼はそれを承知で堕天したのだからな」
「アブー・バクル師、そなたにもよい返事を期待するのは無理なようですな」
彼は小さく笑う。声は諦めたかのように桐仁に呼びかけた。
「ならばそなたが来い、来るがよい」
その声に彼は、周囲の不安げな表情にまるで気づかぬ様子で、どことなく失笑するかのように応じた。
「僕ですかね?」
「さよう、汝は地に住まうものでありながら我らに匹敵する知性を備える。ならば研鑽により、我らのうちの一として永久に栄えることも可である。二級の存在から抜け出す資格がそなたにはある」
「やめておきましょう、僕は結構ここの待遇に満足しているんです。それに浅田君の二の舞はごめんですからね。異質なものに取り囲まれてやっていけるだけの自身は僕には到底ありませんね、聖蓮なしで」
「そうか」
声は沈黙する。そして翼によって支えられた核の上端と下端近くに裂け目が出来る。裂け目は広がって一本の筋となり、それが内部から押し開けられる。完熟した果実のようなその奥から、一つの巨大な眼球が姿をあらわし、その視線を単眼にも拘らず機人と本部の人間たちに同時にやる。
さて志穂はその視線を全身で受けとめつつも、本部との間で交わされる会話を機人とともに耳にしていた。そして浅田眞らをはじめとしたガリレオの構成員の幾人かが神族であったことを胸に収めると、対話の終了の宣告の直後、両手の末梢神経に意識を集中した。
(何をなさるか)
「あなたと私の間には情報の共有を妨げる障壁は一切存在しない、違ったかしら? 分かるでしょう?」
(理解はする、しかし我は記憶する、そなたの肉体に生じた変化を)
彼女とてまたそれを記憶していた。姿こそまるで異なるが同じように空を舞う敵に遭遇したときに、ベレロポンは内部に秘めていた能力を暴発させ、機人と志穂の両方の手の骨格を変質させて翼状組織を作り上げたのだった。そのときの苦痛は確かに耐えがたいままで残存した。そしてまた、彼女が地下で見出した別の機人を目前に蘇ってきた彼女ではないベレロポン自身の記憶も彼女を惑わしていた。ベレロポンは他の機人と異なり、元来シーシュポスをプロメテウスのように啄ばみ封印するための別の種類の人工生命であり、そのおぞましい記憶と傷つけられたシーシュポス自身の心的外傷との緩衝が予想外の反応の、つまりは幻覚の原因だと彼女は理解していた。つまりはシーシュポスとベレロポンは悪しくも深き縁によって深く結ばれていたのだと。
「私は、一度理解したことは絶対に忘れたりはしない。それに、一度犯した過ちは二度と繰り返したりはしない、それが戦いならばなおさらよ」
感情と痛覚を抑制し、破骨と造骨の両機能が活性化するのを待つ。徐々に彼女のではなく、機人の指先のみが熱を帯びるのを感じる。不自然な方向にそれぞれの指が伸ばされていき、その間の皮膚が伸びて皮膜となっていく様をイメージする。未熟なままで、今にも飛び立ちたい誘惑を抑圧して激しい肉欲にも似た熱が両腕から肩に及ぶまで待つ。しなやかに筋肉が形成されていき、同時に肉体の他の部分の骨が溶解し、肉が分解されて軽量化されるのを感じる。その諸成分が血管を通して翼となるべき箇所に彼女の意志のもと集中していく。全ての準備が揃ったと彼女の感じたとき、機人は生まれたてのひな鳥のように無邪気に、咆哮して見せた。そして粘液のしたたる羽毛を一振りして一帯の都市に雨を降らせると、地上を見据える眼を目指して飛び立った。
問題は、草薙にいる娘である。というのも、彼女は将来大人になることで永遠に成長しない「キルドレ」である彼女をいずれは追い越すのだが、それは救いようのない繰り返し/無時間から、繰り返すことのない時間を持った存在が生まれたということじゃあないのかね? 円環にあけられた穴のようであるが。
(原作によれば「キルドレ」であることをやめたり戻ったりできるそうだ。あとは草薙の「ティーチャー」との因縁とかもあるそうだが、自分はとりあえず映画本編から読み取れる情報のみから解釈するつもり)
そうだ、最大の問題は字幕と英語の内容が時折ずれていること。互いに名を呼ぶときにどうしても函南だとか湯田川だとか聞こえない。あとは「ティーチャーを墜とす」という字幕に「I'll kill my father.」と明確に発音していることか。多くの日本人はポーランド語はともかく英語は曲がりなりにも出来るので、これは意図された演出に違いない。
で、映画を見ていかがわしい一帯にあるラーメン屋で昼を食べ、ガード下のコーヒーやで一息入れてブックオフとブックファーストに立ち寄って解散。二冊購入。
読み返している本は『金閣寺』。半分くらいまで。なんじゃなあ、昔読んだときは一パーセントも理解していなかったな。ただ挑戦したことは無意味ではないはず、良質なものを読み通す作業の繰り返しからしか名作を受け入れる準備はできないだろうから。
福田総理辞めるそうだな。
MESSIAH COMPLEX CHAPTER VII-11
機人シーシュポスとカッサンドラが色彩の暴発の跡を千葉市に残してからまったく消失したための本部の騒擾の収まるか収まらぬかといううちに、空電を通して聞こえたラテン語を浅田は誰に聞かせるともなく翻訳していた。
「……正義を愛せよ、地に住まうもの、か」
「『神曲』に出てくる木星天に集まる魂の集合体が発する言葉だね。確か正義を愛した人間の魂が集合して巨大な鷲の形を作り、一つの存在のように振舞うんじゃなかったっけ」
浅田がふと妙な表情をして彼のほうを振り向くと、桐仁は微苦笑する。
「聖蓮がね、ちゃんと修正の入っていない版に当たれっていってね。それまでろくに読んだことなかったんだけど、彼女に言われたら読まないわけにはいかないだろう?」
「ふん」
浅田は再び大写しになった怪鳥と空電とに集中する。それは自分自身を支えるような構造を殆ど変化させずに静止したまま全身を震わす。その表層に溜まった脂肪を抱え込んだ皮膚のように波打ちながら肉塊は遠雷のようにしかしはっきりと言語を作り出した。
「堕天者よ、堕天者よ、天と地の災いよ」
先程のラテン語の小文に比べてそれは遥かに遠くまでの空間を震動させた。込められた感情の激しさに比例するかのようであった。
「今こそ我ら汝らを裁かん。ラーフラ、アブー・バクル、そしてトマス。まずはその罪大なる三者より罪に定めん。汝らは既に計量され、不足の明らかなれば」
今まで心なしか俯き気味であった浅田は、その言葉で面を上げ、相手からは見ることの出来ないはずであるにもかかわらず激しく面を上げた。
「トマスは死んだぞ」
「ほう?」
「そうだ、トマスは死んだ。俺たちに後事を託して彼は去った。最後まで両種族の共存に望みを失うことなく」
「おろかなことを。可能性のないことに賭けるのは希望などではなくただの愚行に過ぎぬ、ラーフラよ」
「二度とその名で俺を呼ぶな、俺は堕天してとうの昔にそれを捨てた」
「たわけたことを。今のお前は類人猿の中で暮らす文明人の苦痛をどれほど味わっているか。神族と人族は身体能力も忍耐力も、そして知能もまるで異なっていること甚だしい。何気ない会話のときでさえ、お前が百考えるうちに人は一しか思わん」
「この期に及んで説得か? 笑わせるな」
「神には常にゆるす用意がある、それを受け入れないのがもはや堕ちて人となった者どものおろかさだな」
「もう結構じゃないかね、彼はそれを承知で堕天したのだからな」
「アブー・バクル師、そなたにもよい返事を期待するのは無理なようですな」
彼は小さく笑う。声は諦めたかのように桐仁に呼びかけた。
「ならばそなたが来い、来るがよい」
その声に彼は、周囲の不安げな表情にまるで気づかぬ様子で、どことなく失笑するかのように応じた。
「僕ですかね?」
「さよう、汝は地に住まうものでありながら我らに匹敵する知性を備える。ならば研鑽により、我らのうちの一として永久に栄えることも可である。二級の存在から抜け出す資格がそなたにはある」
「やめておきましょう、僕は結構ここの待遇に満足しているんです。それに浅田君の二の舞はごめんですからね。異質なものに取り囲まれてやっていけるだけの自身は僕には到底ありませんね、聖蓮なしで」
「そうか」
声は沈黙する。そして翼によって支えられた核の上端と下端近くに裂け目が出来る。裂け目は広がって一本の筋となり、それが内部から押し開けられる。完熟した果実のようなその奥から、一つの巨大な眼球が姿をあらわし、その視線を単眼にも拘らず機人と本部の人間たちに同時にやる。
さて志穂はその視線を全身で受けとめつつも、本部との間で交わされる会話を機人とともに耳にしていた。そして浅田眞らをはじめとしたガリレオの構成員の幾人かが神族であったことを胸に収めると、対話の終了の宣告の直後、両手の末梢神経に意識を集中した。
(何をなさるか)
「あなたと私の間には情報の共有を妨げる障壁は一切存在しない、違ったかしら? 分かるでしょう?」
(理解はする、しかし我は記憶する、そなたの肉体に生じた変化を)
彼女とてまたそれを記憶していた。姿こそまるで異なるが同じように空を舞う敵に遭遇したときに、ベレロポンは内部に秘めていた能力を暴発させ、機人と志穂の両方の手の骨格を変質させて翼状組織を作り上げたのだった。そのときの苦痛は確かに耐えがたいままで残存した。そしてまた、彼女が地下で見出した別の機人を目前に蘇ってきた彼女ではないベレロポン自身の記憶も彼女を惑わしていた。ベレロポンは他の機人と異なり、元来シーシュポスをプロメテウスのように啄ばみ封印するための別の種類の人工生命であり、そのおぞましい記憶と傷つけられたシーシュポス自身の心的外傷との緩衝が予想外の反応の、つまりは幻覚の原因だと彼女は理解していた。つまりはシーシュポスとベレロポンは悪しくも深き縁によって深く結ばれていたのだと。
「私は、一度理解したことは絶対に忘れたりはしない。それに、一度犯した過ちは二度と繰り返したりはしない、それが戦いならばなおさらよ」
感情と痛覚を抑制し、破骨と造骨の両機能が活性化するのを待つ。徐々に彼女のではなく、機人の指先のみが熱を帯びるのを感じる。不自然な方向にそれぞれの指が伸ばされていき、その間の皮膚が伸びて皮膜となっていく様をイメージする。未熟なままで、今にも飛び立ちたい誘惑を抑圧して激しい肉欲にも似た熱が両腕から肩に及ぶまで待つ。しなやかに筋肉が形成されていき、同時に肉体の他の部分の骨が溶解し、肉が分解されて軽量化されるのを感じる。その諸成分が血管を通して翼となるべき箇所に彼女の意志のもと集中していく。全ての準備が揃ったと彼女の感じたとき、機人は生まれたてのひな鳥のように無邪気に、咆哮して見せた。そして粘液のしたたる羽毛を一振りして一帯の都市に雨を降らせると、地上を見据える眼を目指して飛び立った。
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劇中でも示唆されてるけど、ミズキの父親はキルドレでない普通の大人の男であるティーチャだから、神聖・特別性は薄れるんじゃあない?
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